【ジョブ型雇用】が注目される理由
コロナ禍によるテレワーク拡大などを背景に、終身雇用やメンバーシップ雇用という日本ならではの雇用システムから、欧米型の「ジョブ型」に切り替えるべきだという議論が注目されています。今回は、ジョブ型雇用が注目されている理由に加えて、企業がジョブ型雇用を導入するメリットや注意点について解説します。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用(職務型)とは、採用する人材の業務内容や求める能力を募集の時点で明確に定め、企業の中で必要な職務内容に対して、年齢や学歴よりもその職務に適したスキルや経験を持った人を採用・評価する雇用方法のことを言います。よって、業務範囲は明確で転勤の可能性も低いです。
一方でメンバーシップ型雇用(職能型)とは、職務を限定せず幅広い人材を採用し、能力や意欲に応じて仕事を分担する雇用制度で、終身雇用・新卒一括採用・年功序列に代表される日本型の雇用形態を指します。メンバーシップ型雇用は入社時典では具体的な配属が決まっていないことも多く、ジョブローテーションや研修を通じて個人の適性を見て配属を決定していく流れが多いです。一般的には勤続年数に応じた昇給制度や退職金制度が設けられています。よって、業務範囲は総合的かつ流動的で事業内容や会社の規模によりますが、ジョブ型雇用よりもお転勤の可能性が高くなります。
ジョブ型雇用=成果主義ではない
ジョブ型雇用において求められるのは、あくまで「自身のスキルを活かして決まった範囲内の業務を滞りなくきちんと行うこと」で、採用時にその業務に対する給与額が決められてるため、一部の上層ポストを除いては、仕事の成果を都度評価することはなく、高い成果が上がったからと言って必ずしも給与額に反映されるわけではないため、ジョブ型=成果主義とは言えません。
1990年代後半、日本企業の多くが成果主義の導入に動き、従来型の年功序列型の賃金体系を見直し、人件費を適正化したいという狙いから「成果に応じた適正な評価を行う」ことを意識し始めました。しかし、そもそもメンバーシップ型での雇用だったことより、個人の仕事の範囲も明確に決められおらず、本人の意思に関係なく会社から突発的に指示される業務も多く抱える中で適正な評価が難しいことより、現場が混乱し、2000年以降はこの「成果主義」も下火になっています。
ジョブ型雇用が注目される理由
1)労働生産性の向上・年功序列による人件費の高騰
企業経営上で必須な人材のみを雇い、それぞれの仕事に見合った賃金設定が可能になることで、人件費も必要な支出のみに抑えられます。それにより企業の利益を向上させることにもつながるでしょう。「会社に長く所属すること=会社に貢献している」と定義して給与テーブルを作成してきた従来型の年功序列の場合は、スキルを保有していない社員にも規定の給与を支払う必要があるため人件費が高騰しやすく、企業経営上で負担になりやすいです。
2)国際競争力の強化
2000年頃より、IT系を中心とする様々なグローバル企業が日本へ進出しており、グローバル企業の進出によって日本市場の競争が激化し、日本企業のシェアが減少しています。実際に、スイスのビジネススクールが毎年調査・発表している「世界競争力ランキング」では、日本は1989年から4年連続で1位でしたが、2020年ランキングでは34位となり、ここ数十年で日本の国際競争力が大きく低下していることが分かります。そのような中で、今後の日本企業の課題は、日本国内だけではなく世界的な市場へと視野を広げる必要があり、そのために世界の企業とも競争できるようなIT分野をはじめとした専門性の高い優秀な人材の確保や強固なビジネスモデルが必要になり、欧米型のジョブ型雇用が注目されています。
3)IT分野における人材不足
AI、IOT、DX、ICTなど今後あらゆる業種で取り組むべき新しい事業には、高い専門性を有する人材の確保が必須になります。専門的分野に関わる人材を募るには、仕事内容やその仕事に必要なスキルを明確にしたた求人活動を行うことが有効です。特にIT関連などの専門性の高い職種では慢性的に人材が不足している現状があり、最適な人材の獲得と即戦力を期待するには、ジョブ型雇用の手法がマッチすると言われています。
4)経団連会長によるジョブ型雇用推進の流れ
経団連第5代会長の中西宏明氏が従来型であるメンバーシップ型雇用の手法の限界を唱えたことで、日本でもジョブ型雇用を推進する流れが生まれました。
実際に、中西氏が会長を務める日立製作所でも2020年よりジョブ型雇用の採用手法が取り入れられるなど、さまざまな企業で導入が始まっています。
5)テレワークの普及による影響
日本政府の推進する「働き方改革」をはじめ、労働者の仕事に対する価値観や労働環境は変化している中で、コロナ過によるテレワークの普及も加速しています。在宅勤務やテレワークの特徴の1つとして、業務における社員個々の生産性が明確に測りやすい点が挙げられます。業務生産性向上のための働き方の見直しによって、「適材適所の配属」という流れが強まっています。ジョブ型雇用は、「社員一人ひとりの自律的な働き方を促す、具体的な成果を客観的に評価しやすい雇用形態」といわれており、テレワークにおける、「働く姿が見えないので部下の管理が難しい」「逆に生産性が低下する」といった問題の解決策として、ジョブ型雇用が注目されています。
ジョブ型雇用を導入するメリット
■専門性の高い人材(即戦力人材)を採用できる
■入社後のミスマッチを防げる(募集の段階で求められるスキルが明確化されているため)
■明確化された業務内の成果に応じて正当に社員を評価できる(人事評価の明確化)
■社員の特性・専門性を活かした業務そのものが自身のスキルアップ手段になり、社員のモチベーションも上げやすい
ジョブ型雇用を導入する注意点
■企業への帰属意識が薄れ、転職のハードルが低く人材流出の可能性が高い点
■メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ転換する場合や、一部導入する場合でも給与体系や社員の評価項目などの抜本的な見直しが必要な点
■急な人員不足時の人員補填など、ジョブローテーション(異動・転勤)が難しい点
■業務内容や求める能力・スキルのレベルによっては採用のハードルが高くなる可能性がある点
まとめ
ジョブ型雇用を導入することで「会社がやるべきこと」を実行できるシンプルな組織になります。「失われた30年」を取り返し、複雑化してスピード感が求められる今の時代においての経営戦略を遂行していくためには、ジョブ型雇用の導入も経営戦略の1つに取り入れるといいでしょう。